Q1-1.血中のプロラクチンがとても高い、といわれました.どういうことでしょうか?
プロラクチンは乳汁分泌ホルモンといって、脳下垂体から分泌され、母乳の分泌と産後の無月経をおこすはたらきがあります.このホルモンは、妊娠中と産後の授乳中に大量に産生されます。ときどき、このホルモンが妊娠中や授乳中以外に大量に分泌されることがあります。これは、不妊症のおおきな原因のひとつとなります。
プロラクチンが過剰に分泌されると、視床下部からのGn-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌が阻害されます。このLH-RHの刺激なしには、脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)が正常には分泌されません。卵胞は発育せず、エストロゲンも分泌されず、排卵も月経も起こらなくなります。 血中の正常値は、ふつう15ng/ml未満です。
Q1-2.高プロラクチン血症の治療は、どのようにするのですか?
ブロモクリプチン(パーロデル)やテルグリッド(テルロン)という内服薬が使われます。 空腹時に飲むと気分が悪くなることがあるので、食べ物と一緒に飲みます。最初のうちは、起立性低血圧、吐き気、嘔吐などを起こすことがあるので、寝る前に半錠をなにかの食べ物と一緒に飲むようにします。なにも副作用がない場合は、毎晩一錠ずつ飲むようにします。プロラクチンの値が高いときは、さらに朝、晩、一錠ずつ飲み、4ー6週間後に血中プロラクチン値を測定します。高プロラクチン血症のために無排卵なのであれば、約2ヵ月後には排卵が認められるようになります。
Q1-3.高プロラクチン血症の治療に、ブロモクリプチンやテルグリッドはどの程度有効ですか?
たいへん有効です。 飲み始めてから2〜3週間で、プロラクチン値が正常になります。プロラクチン産生腫瘍も縮小することが知られています。
Q1-4.ブロモクリプチンやテルグリッドを、妊娠初期にずっと飲んでいてもだいじょうぶなのですか?
妊娠中にブロモクリプチンやテルグリッドを飲んでいた母親から生まれた子供に先天異常が多い、とする報告はありません。しかし、妊娠が確認されたら投与を中止するのが一般的です。
Q2-1.自分で排卵の時期はわかりますか?
いつ頃排卵するかは、超音波で卵胞の大きさをチェックするのがもっとも確実です。 基礎体温は、あとから見ると、このあたりで排卵したかなというのはわかるのですが、排卵の時期の予測は難しいと思います。頚管粘液でも、ある程度はわかりますが不確実です。 客観的にわかるものには、尿中のLH濃度を調べるLHカラー、LHチェックというものがあります。これがプラスになってからおおむね36時間後に排卵します。
Q2-2.セックスの回数を増やせば妊娠しやすくなりますか?
確率でいえばそのとおりです。 精子は卵子よりも女性の体内で生きている期間が長いため、排卵日前から排卵日にかけて一日おきにセックスをすると、つねに精子が卵子を待ち受けている状態になりますので、受精の確率が上がります。
Q2-3.もし排卵日にきちんとセックスすれば、かならず妊娠できるのですか?
いいえ。健康な男女が排卵日頃に(数回)セックスしても、その周期に妊娠する確率は約20%前後です。
Q3-1.受精には1つの精子しか必要ないのに、どうしてそんなに多くの精子が射精されるのですか?
精子が卵子に到達するまでに、ほとんどの精子は死んでしまうからです。 まず、腟内から多くの精子(精液)が自然に流れ出ます。運良く頚管内に残った精子も、頚管粘液中で淘汰され、1/1000の確率で子宮腔に入ります。また、白血球や貪食細胞に処理されるものも相当数あります。最終的に、卵管采の卵子に到達できる精子は2000個以下。そのなかで、1個の精子のみ受精できるわけです。このサバイバルレースを勝ち抜いた精子は、数億のなかから選ばれた、エリート中のエリート、といえるでしょう。
Q3-2.禁欲期間を長くすると、精液所見が良くなるのでしょうか?
いいえ。 精子は射精されないからといって、いつまでも生きているわけではありません。しばらくすると、精子は変成してきます。その結果、精液中に古い精子が増加し、精液の質はかえって悪くなります。ですから、禁欲期間をおいても妊娠しやすくなる、ということはありません。一般には、2日〜7日の禁欲期間をとることが理想的といわれています。
Q4-1.多嚢胞性卵巣と多嚢胞性卵巣症候群とはどう違うのですか?
多嚢胞性卵巣の卵巣白膜に肥厚が認められることが特徴で、時に隆起しているものも見られます。卵巣の表面は多くの小さい嚢胞で覆われていて、嚢胞のあいだの組織(間質)は増殖しています。この多嚢胞性卵巣自体はとくに問題はありません。若い女性の20%にみられた、という報告もあるくらいです。しかし、これに排卵障害やテストステロン過剰による症状(にきび、多毛など)、肥満などの症状が出てくると多嚢胞性卵巣症候群といって、治療の対象になります。
Q4-2.なにが原因で多嚢胞性卵巣症候群になるのですか?
多嚢胞性卵巣は通常、家族性にみられるようです。ですから、遺伝的なもののようです。多嚢胞性卵巣からどのようにして多嚢胞性卵巣症候群になっていくのか、詳しいことはあまりよくわかっていません。もっとも重要なのは、体重の増加と関係があるらしい、ということです.多嚢胞性卵巣は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンに感受性が強く、肥満の女性は痩せている女性よりもインスリンの分泌が多いことから、たまたま多嚢胞性卵巣をもって生まれた女性が太ると卵巣にとって悪い方向へむかう、と考えられます。
Q4-3.多嚢胞性卵巣症候群の治療にはどのようなものがありますか?
まず、肥満という症状があれば、体重を減らすことです。体重を減らすだけで妊娠することもあります。 若年の未婚の女性の場合、ホルモン療法で月経のみ来るようにするカウフマン療法をしますが、無排卵の不妊症であれば、積極的に排卵誘発剤を用います。
Q5-1.無排卵症には、どのような治療がおこなわれるのですか?
高プロラクチン血症にはその治療。 痩せすぎによるものは体重を増やすこと、肥満のPCOSなら体重を落とす、などです。 それ以外のほとんどの無排卵症の治療には、まずクロミフェン(クロミッド、フェミロン)を用い、効果ががなければ注射(HMG、フォリスチムなど)による排卵誘発をおこないます。 稀ですが、下垂体性の排卵障害は内服薬はありませんので、最初から注射による治療になります。
Q5-2.クロミフェンとはどのような薬ですか?
クロミフェン(クロミッド、セロフェンなど)は、視床下部にも脳下垂体にも排卵をおこすようにはたらきます。 視床下部のレベルでは、LH-RHのパルス頻度を増加させ、脳下垂体レベルではLH-RHへの感受性を亢進させます。この両方の作用により脳下垂体からのFSHとLHを増やし、それが卵胞発育を刺激するのです。またクロミフェンは卵巣に直接はたらいて、FSHの刺激に対する感受性を上げるという効果もあるようです。
Q5-3.クロミフェンはどのような飲みかたをするのですか?
通常は、月経周期の5日目から1日1錠ずつ5日間飲む、という方法から始めます。1錠でうまく排卵しない場合、1日2錠ずつ5日間へと増量します。これで排卵するならその後の周期にもおなじ量のクロミフェンを投与します。排卵しない場合も、もう2〜3周期同じ量でつづけてみます。排卵した(する)かどうかは、基礎体温と経腟超音波で確認します。 それでも排卵しないようならクロミフェンを増量するのではなく、他の排卵誘発法を考えます。
Q5-4.クロミフェンにはどのような副作用がありますか?
必ず現れるものではありませんが、頚管粘液の量が減ったり粘稠になって精子が頚管を通り抜けにくくなることと、子宮内膜が薄くなる(そのため月経の量が減ることもある)などです。子宮内膜が薄くなるため、受精卵の着床にはマイナスになるかもしれません。このような副作用を抑えるためにも、クロミフェンは排卵をおこす最少量を用います。また、長期の連用を避けます。
Q5-5.クロミフェンを飲むことで、どれくらいの確率で排卵するのですか?
おおむね70ー75%のひとが排卵します。クロミフェンにあまり反応しないのは、エストロゲン不足になっているひとです。
Q5-6.クロミフェンによる排卵率にくらべて妊娠率が低いのは、なぜですか?
不妊の原因は無排卵のみとは限らないので、排卵させてもそれだけでは妊娠しないことは当然多くあります。
Q5-7.クロミフェンとHCGを併用する、という治療法もあるのですか?
クロミフェンで卵胞が発育しても、LHサージが起きないため排卵しないこともあります。そのような場合、HCGの注射をうつことによって排卵を起こすことができます。HCGをうつタイミングは、超音波検査や血中エストラジオール、尿中LHを参考にして決定します。
Q5-8.クロミフェンで排卵が起こらない場合、他にどのような治療法がありますか?
もっとも多く用いられるのがHMG(ヒト閉経ゴナドトロピン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)の注射です。
Q6-1.HMGとは、どのような薬ですか?
HMGとは、ヒト閉経ゴナドトロピンの略です。閉経期の女性の尿から精製したもので、FSHとLHの両方を含みます。最近は、ほぼFSHのみの製剤もあり、使い分けられています。 商品名は、ヒュメゴン、パーゴナル、パーゴグリーン、ゴナドリール、日研HMG、フェルティノーム、などです。
Q6-2.HMGは、どのようにはたらくのですか?
HMGは、卵巣にある卵胞を直接刺激して、発育させます。 HMGの投与中は、超音波による卵胞の観察と、血中エストラジオールの測定でモニターし、卵胞径が18ー20mmあるいは血中エストラジオールが300pg/mlになった時点でHCGを投与して排卵させます。
Q6-3.HMGはどの程度有効なのですか?
患者が低ゴナドトロピン性卵巣機能低下症の場合には、排卵率は90%以上です。 PCOSの場合は、排卵率は70ー75%です。
Q6-4.HMGの副作用にはどのようなものがありますか?
大きな問題がふたつあります。 それは、多胎妊娠と、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。 HMGを用いた場合、多胎妊娠率は25%くらい、といわれています。
Q7-1.卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とはどのようなものですか?どのような治療を行うのですか?
OHSSとは、卵巣がHMGなどによって過剰に刺激をうけた場合に起こる状態のことで、通常はHCGの注射後に起こります。軽症、中等症、重症、危機的、の四段階があります。
軽症は、卵巣が大きく腫れて、子宮のうしろのダグラスかというところにわずかに腹水がたまる状態です。卵巣が大きくなるにしたがって、重苦しい感じ、下腹部不快感、痛みなどを起こします。 体外受精では大量のHMGを用いますので、ほぼ全例がこの軽症の状態になります。基本的に安静と痛み止めのみで経過をみますが、そう大きな問題とはなりません。
中等症では、さらに卵巣が腫大し、腹水がへその下まで認められるようになります。ただちに入院の必要はありませんが腹部不快感、膨満感はよりひどくなり、体重がふえます。妊娠しなければ一週間以内に軽快します。
腹水がへその上の上腹部に達すると、重症となり入院が必要です。胸水がたまって呼吸障害が出てくると、危機的となり、集中管理が必要になります。身体の全体としては水分過剰ですが、血管内は血液が濃縮するため血栓症を起こしやすくなります。このようになる場合はほとんどが妊娠例であり、人工妊娠中絶が必要になることもあります。
OHSSの治療としてはその重症度に応じて水分制限や、大量のアルブミン(血液中のタンパク)の補給、ドーパミン療法(腎臓の血流量を上げ、尿が出るようにする)、抗凝固療法(血栓の予防)、腹水を抜いて濾過して濃縮し血管内に戻す方法、などがあります。
Q7-2.HMGを使うときに、どうすれば多胎妊娠やOHSSを予防することができますか?
超音波を用いて、卵胞数と卵胞径をきちんとモニターすることです。HMGの量は少なめから開始します。最後に注射するHCGの量も減らし、黄体期補助にHCGを用いないようにします。血中エストラジオールの値も参考になります。直径17mm以上の卵胞が3個以上できているか、エストラジオール値が700pg/ml以上の場合はHCGを注射せず、性交あるいはAIHをキャンセルとします。
体外受精の場合は、おおむね発育卵胞数が20個以上、血中エストラジオール値が3000pg/ml以上のときは採卵はしますが、受精卵を新鮮胚移植せずすべて凍結保存とします(選択的胚凍結保存)。そして、後日自然周期あるいはホルモン補充周期で胚移植を行います。この方法(選択的凍結胚移植)によって、重症以上のOHSSはほとんどなくなります。
Q8-1.
IVF-ETとはなんのことですか?
IVFは、In Vitro Fertilization
の頭文字をとったもので、日本語では体外受精、と訳します。ETとは Embryo Transfer
の略で、日本語では胚(受精卵)移植、と訳します。基本的な原理は、卵巣から1個またはそれ以上の卵子を採ってきて、からだの外で(培養液と培養器が必要です)夫の精子を使って受精させ(体外受精)、受精した1個または数個の受精卵を子宮に戻す方法です。受精卵を子宮に戻す操作を胚移植といいます。
Q9-1.Gn-RHアナログとはどのような薬ですか?
Gn-RH(LH-RH)とは、視床下部から分泌されて、脳下垂体を刺激するホルモンですが、このホルモンの化学構造を変えることにより、もとのGn-RHとおなじ効果と、それに加えて違う効果をもった新しい化合物をつくることができます。それがGn-RHアナログと呼ばれるものです。商品名では鼻から吸入するスプレキュア、ナサニール、注射薬にはリュープリン等があります。
Gn-RHアナログを投与すると、最初に脳下垂体が刺激されますが、何日か続けて使っているうちに今度は脳下垂体が無反応状態となり、天然のGn-RHにも反応しなくなります。その結果、脳下垂体からのFSHやLHの分泌は低下します。LHサージも抑えますので、自然排卵もなくなります。
その結果、HMGやFSHの注射で卵胞発育をコントロールできるようになるので、体外受精のときの卵巣刺激と併用でよく用いられます。 なお、これらのGn-RHアナログは、保険上では子宮内膜症や子宮筋腫に用いられるものです。すなわち、4ヶ月から6ヶ月間月経を止めて、病巣を萎縮させます。スプレキュアは一日3回左右の鼻腔から、ナサニールは一日2回片側の鼻腔から吸入します。リュープリンは皮下注射で、約4週間効果があります。
Q10-1.抗精子抗体と不妊について教えてください?
免疫と抗体について 私たちの体には免疫機能があり、さまざまな抗原(異種のたんぱく質や多糖類・毒素・細菌やウイルスなどの微生物)から体を守っています。 抗原によっては抗体(生体内に抗原が侵入したとき、それに対応して生成され、その抗原に対してのみ反応するたんぱく質。実際に抗体として働くのは免疫グロブリン)もつくります。 抗原が侵入してきたとき、抗体が抗原を攻撃したり、この異物にくっついて白血球などの免疫細胞が攻撃しやすいようにして排除・無毒化し、体を守ります。これを抗原抗体反応といいます。抗原抗体反応のうち、病的な過敏反応をアレルギーといいます。
抗精子抗体について 精子は女性の体にとっては異物です。 したがって、夫婦生活により女性の体内に精子が入ると、それに対する免疫反応として、精子に対する抗体ができることがあります。この精子抗体は、血液中以外に頚管粘液、子宮腔、卵管内、卵胞液内にも出現します。抗体が精子の膜に結合すると、精子に損傷が起き、精子の運動能力が低下しほとんどの精子が卵子にたどり着く前に無力化されてしまいます。 そのため、女性が抗精子抗体を持っている場合には、自然妊娠することは非常に難しくなってきます。ただし、受精卵になってしまえば問題はありません。
抗精子抗体と不妊治療について 抗精子抗体が陽性の場合でも妊娠が不可能というものではありません。 抗体の強さ(抗体価)が高くない時(5%以内)であれば人工授精での妊娠の可能性があります。具体的には精子を洗浄してから子宮に戻す方法になります。 抗体価が20%以上は体外受精や顕微授精になります。 抗精子抗体の抗体価は変動するものですから、一度の検査で失望することでもありません。
Q11-1.妊娠中、特に注意すべき感染症とその危険性について教えてください?
風疹(三日はしか)や水痘(みずぼうそう)に対しての免疫のない人が、妊娠中に風疹や水痘にかかると、流産・早産になることがあります。また、出産されたこどもさんの、目や耳が不自由になったり、精神的発達に遅れが出たりすることもあります。
また、妊娠中に、伝染性紅斑(リンゴ病)にかかった場合には、流産・早産・死産になることがあります。また、妊娠中にサイトメガロウイルス(CMV)に感染すると、誕生後にこどもに学習面での問題が生じることがあります。 妊娠中のおたふくかぜ
(ムンプス・流行性耳下腺炎、)の罹患は、先天性奇形と関係ないとされていまが、妊娠初期の場合には、流産の確率が高まります。
Q11-2.その感染症の予防対策を教えてください。
風疹、水痘とおたふくかぜ(ムンプス・流行性耳下腺炎)には予防接種(ワクチン)があります。将来の妊娠を考えている女性は、早めに血液検査(風疹、水痘とムンプスに対する抗体検査)を受けて風疹、水痘とおたふくかぜに対する免疫の有無を確認し、免疫がない場合には、早めに予防接種(ワクチン)を受けましょう。風疹、水痘とムンプスの予防接種(ワクチン)については、妊娠中は接種することができませんし、接種後3ヶ月間は妊娠するのを避ける必要があります。
これらの病気はこどものうちに感染しますが、軽い症状のものが多いです。そして抗体がつくられ、その免疫ができます。しかし妊娠中に感染すると、おなかの中のこどもが悪影響を受ける場合があるのです。
妊娠中には、学校・幼稚園・保育園・小児科医療機関等のようなこどもたちとの接触が多い職場に勤めているような場合、あるいは家族に小さなこどもがいるような場合には、こどもたちからそのような感染症の病原体を受け取って感染してしまうようなことは、避けるように注意する必要があります。
Q12.不妊治療にかかる漢方薬の費用を教えてください。
患者様ひとり、ひとりの身体の状況や、卵巣機能の状況によって必要な漢方薬が異なりますが、一カ月2万円弱から5万円ほどです。 男性不妊の治療は一カ月1万円から2万円ほどです。あくまでもおおよその目安です。
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